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化学研究室

船山 智代 教授

卒業研究

 卒業研究のテーマは、学生が自主的に取り組み易いように、学生と教員でゼミ(研究相談会と称している)において話し合いをしながら、学生の興味・関心を踏まえて決定している。その過程では、図書館にて文献検索ガイダンスを受講する機会を設け、学生が自身が考えたテーマについて、現時点で「何が分かっていて、何が分かっていないのか」を明確にするよう指導している。なおテーマ選択の際に2つ条件を設けており、一つは「定量化」の観点を含むこと、もう一つは「粒子」の視点を基盤としていることである。当該専修で開設している化学領域の科目は、化学実験を含めて9科目と少ないが、系統立てた学びが出来る様に学年を追って段階的に配置している為、4年生まで全科目を履修してきた学生は、基本的な化学の知識基盤ができているので、比較的順調に卒業研究に取り組めている。研究は、「わからないことを楽しむ気持ちで取り組むことが必要」と学生に伝えているが、楽しむには最低限必要な専門知識が必要である。

教員の研究テーマ

 現在の私の個人的な研究テーマは、加齢に伴い発症・進行する眼科疾患に関与する分子基盤を明らかにすることです。化学研究室において学生と取り組んでいる研究テーマとしては、物質が持つ抗酸化能を電子構造に基づき評価すること、および金属イオンの水和についてです。その他、粒子の視点に基づく化学実験教材の開発にも取り組んでいます。
 加齢に関するテーマについて少し紹介します。加齢性疾患は、加齢に伴い細胞老化が誘導された老化細胞が、組織・臓器に蓄積して細胞 老化関連分泌現象(SASP)を起こし慢性炎症を惹起することが知られており、高齢化社会において細胞老化の抑制やSASPの制御は重要な課題となっています。私は先に、加齢性疾患である緑内障の患者において、その遺伝子解析結果から、OLFM2遺伝子の変異を疾患群に見つけると共に、症例対照研究にてOLFM2遺伝子多型と臨床型の組み合わせで疾患群の臨床型(視野)に有意差を見出し、緑内障の発症と進行へのOLFM2の関与を示唆しました。OLFM2は分泌タンパク質である為、サイトカインとしての性質を持ち炎症を惹起する可能性が考えられ、加齢と炎症の関連に着目しました。実験は、小型の脊椎動物のZebrafishの網膜を用いてRNA-seq解析を行い、週齢の増加に伴う発現変動遺伝子群を明らかにすることを試みています。週齢で有意な分子群の特徴とその性質を明らかにすると共に、細胞老化の程度の定量化についても研究しています。

※研究業績:作成中

これまでの卒業研究

 これまで化学研究室で取り組んで来た卒業研究のテーマを大よそ5つの観点から分類し、以下に示しました。特に「2」の水和に関するテーマは、年度を追って複数名の学生が取り組んでいるので、段々と研究内容が深くなっています。青字で記載したテーマは、文教大学の紀要に報告しました。

「1」ラジカル消去率を介した物質の抗酸化能測定の研究(年度)
・フラボノイドが有する水酸基の位置及び数とラジカル消去率との関連の検討(2019)
・キウィフルーツ中のアスコルビン酸量の測定(2016)
・フラボン類、フェノール類に結合している水酸基の位置および数とラジカル消去率の相関の検討(2015)
・クロロゲン酸とその代謝産物の溶媒によるラジカル消去率の比較(2013)
・大正金時種皮からのシアニジン3-グルコシドの分離条件の検討(2011)
・リンゴの抗酸化能測定(2010)
・緑茶成分の抗酸化能測定(2010)
・精油の香気成分の抗酸化能測定(2010)

「2」水和に関連した研究(年度)
・物理変化・化学変化に伴うエンタルピー変化を同一の熱量計で測定する試み(2024)
・イオン結晶の陰イオン半径が標準溶解エンタルピーや水和エンタルピーに及ぼす影響について(2021)
・1価・2価の塩化物の陽イオン半径や電荷が水和エンタルピーと水和数に及ぼす影響(2020)
・塩化物イオンを共通に持つイオン結晶の陽イオン半径による水和エンタルピーへの影響(2019)
・系の断熱性を高めた溶解熱測定実験条件の検討とカウンターイオンによる溶解熱の違いの考察(2018)
・溶解熱の中学校理科の授業への導入(2017)

「3」物性を視覚化して評価する化学実験教材の作成(年度)
・実験によるイチョウ葉の黄葉の作成とその教材化の検討(2023)
・ムラサキキャベツとキャベツを原料とした万能pH試験紙の作成(2022)
・ヤブツバキの葉からのクチクラ層及びクチクラ外層ワックスの分離とヨウ素デンプン反応の観察(2018)
・アサガオの色素抽出溶液を利用した水溶液の性質を調べる視覚教材の作成(2016)
・巨峰を利用したpH色見本教材の検討(2015)
・物質のもつ性質を視覚化する実験教材の開発(2014)
  -ソルバトクロミズムを利用した熱伝導を視覚化する実験教材の開発-
・はちみつの成分含有量・色・粘度の測定と各要素間の相関の検討(2015)
・ティートリーオイル含有成分のラジカル消去能の検討(2012)
・紫外可視吸収スペクトル法を用いたα-アミラーゼ活性量の測定(2011)

「4」学力調査に基づいた研究(年度)
・全国学力・学習状況調査の結果の分析から検討した中学校理科粒子領域の実験作成におけるポイント(2023)
・TIMSSの結果に基づいた中学校粒子領域の自修型実験教材の検討(2021)
・中学校理科第1学年粒子領域の実験をオンデマンド型の授業で行う際の教材の検討(2020)
・新学習指導要領における粒子・化学領域の改訂の要点とその背景の考察
  -「PISA2015年調査委」の観点から-(2018)
・TIMSSの調査結果に基づいた粒子領域の学習における日本の現状と課題(2018)

「5」化学の教科書分析に基づいた研究(年度)
・中学校第3学年を対象とした『水』の特異性について学習する発展的な授業のための単元作成
  -小・中学校の教科書分析に基づいて-(2023)
・大気汚染物質の濃度と自動車の排出ガスとの関連性の検討(2017)
・小中高を通して学ぶ化学的概念『状態変化・水溶液の性質・酸化還元』の実験から考察した『酵素』について系統的に学ぶ実験の検討(2016)
・中高理科における「イオン」の学習の位置づけについて(2014)
・光エネルギーが起こす化学変化を用いた実験教材の作成(2014)
・新教科書「化学基礎」の目標と内容から考察した「化学基礎」の特徴(2012)

「6」その他
・社会課題の解決に向けた科学技術・イノベーション創出と人文・社会科学及び化学の役割(2022)

授業中の写真

化学実験授業中

化学実験の様子

作成日:2025年3月27日