地理学[共通教養](秋学期)(担当:三木一彦) 今日のおすすめ     22・12・9現在
 
 
T.歴史地理学とは
 
○網野善彦(2000):『日本の歴史00 「日本」とは何か』,講談社,370p.
 近年、歴史学の分野で、従来の「日本史」の枠組を問い直す試みが行なわれていますが、そうした数ある日本論の白眉がこの本です。真正面から「日本」の成り立ちを論じており、「日本人」必読の書といっても過言ではないと思います。2008年には講談社学芸文庫版も出されました。
 
 
U.古代の点・線・面
 
○金田章裕(1999):『古地図からみた古代日本 −土地制度と景観−』,中公新書,230p.
 国府や条里制に関しては、歴史地理学の分野で豊富な研究蓄積があるのですが、それを一般向けに示した本は、私が読んだ限り、あまり見当たりません。その中で、この著作は、古地図の検討から、古代の景観や土地制度を分かりやすく提示しています。図版として収められた古地図を見ているだけでも面白い一冊です。
 
 
V.荘園から村へ
 
○田中圭一(2000):『百姓の江戸時代』,ちくま新書,219p.
 私の恩師の本です。江戸時代の村というと、何となく苦しい生活のイメージがあるのですが(それは高校までの歴史学習でそういうイメージを植え付けられるからなのですが)、それは権力の側からみていたからそうなるのだ、と著者は主張します。百姓の視点でとらえ直したときに、どんな江戸時代の姿がみえてくるのか、「目から鱗」の一冊です。2022年に文庫化されました。
 
 
W.城下町のなりたち
 
○鈴木理生(2000,初出1991):『江戸はこうして造られた』,ちくま学芸文庫,349p.
 東京の原形となった江戸城下町の形成について、とくにその最初の百年間に焦点をあてた一冊です。その前史も含め、江戸という町がどのようにして成立したのかについて、多くの図版とともに叙述されています。
 
 
X.ビデオ『ふるさとの伝承』
 
○田村善次郎・宮本千晴監修(2010〜12):『あるくみるきく双書 宮本常一とあるいた昭和の日本(全25巻)』,農山漁村文化協会.
 昭和42〜63年(1967〜88)に日本各地を旅して書かれた紀行文を、地域別18巻とテーマ別7巻に編集してまとめられたシリーズ本です。数多くの写真とともに、「少し前の」日本列島の姿を瑞々しく伝えてくれます。
 
 
Y.旅と信仰
 
○田辺聖子(2001):『姥ざかり花の旅笠 −小田宅子の「東路日記」−』,集英社,381p.
 高倉健の先祖にあたる筑前国(現、福岡県)の女性が、天保12年(1841)に伊勢参宮や善光寺参詣を行なった際の旅日記を、現代風に読み解いたものです。当時の物見遊山の様子や世相が興味深くえがかれた作品です。集英社文庫版(2004)もあります。
 
○小倉美惠子(2011):『オオカミの護符』,新潮社,204p.
 著者の出身地である川崎市宮前区の集落に貼られていたオオカミのお札を出発点として、奥多摩や秩父に残るオオカミ信仰を訪ね歩いた探訪記です。現代的なベッドタウンや行楽地にあっても、意外といろいろな伝統がつまっていることを感じさせてくれます。2014年には文庫版も刊行されました。
 
 
Z.人獣交渉史
 
@原田信男(2005,初出1993):『歴史のなかの米と肉 −食物と天皇・差別−』,平凡社ライブラリー,381p.
A仁科邦男(2013):『犬の伊勢参り』,平凡社新書,255p.
 日本における肉食の歴史を通史的に俯瞰した@は、時代とともに変容する「日本」の空間的範囲を考える上でも重要な示唆を与えてくれます。Aは、伊勢神宮にお参りする犬の目撃談を伝える江戸時代の各地の史料をひもとく中で、近代以前における人間と動物の関わりに迫った興味深い著作です。
 
 
[.伝統的産業の形成
 
@長崎福三(2001,初出1981):『魚食の民 −日本民族と魚−』,講談社学術文庫,295p.
A星野博美(2014,初出2011):『コンニャク屋漂流記』,文春文庫,485p.
 @は魚食民としての日本人を、漁業との関わりの中でとらえた一冊です。魚料理や魚の旬から始まり、漁業の盛衰史に至る構成で、食卓と産業の関わりがたどれるように工夫されています。Aは、東京都品川区五反田で生まれ育った著者が千葉県外房の御宿町、そして和歌山市へと、自らのルーツ探しをしていく興味深い読み物です。
 
○林 玲子・天野雅俊編(2005):『日本の味 醤油の歴史』,歴史文化ライブラリー(吉川弘文館),202p.
 醤油の歴史について分かりやすくまとめられた概説書です。関西・関東での歴史のほか、第二次世界大戦前における海外での生産についてもふれられています。身近な調味料にも深い歴史があることを教えてくれます。
 
 
\.ビデオ『映像の20世紀』
 
○宮本常一(1984,初出1960):『忘れられた日本人』,岩波文庫,334p.
 庶民の生活を調べることによって、その歴史を掘り起こそうという学問分野に民俗学があります。この本は、代表的な日本民俗学者の一人である著者が、古老たちからの聞き取りをもとにまとめたものです。私たちにとってそれほど遠くない世代の暮らしぶりを「忘れない」ための一冊といえるでしょう。
 
 
].イモの来た道
 
@角山 栄(2017,初出1980):『茶の世界史 −緑茶の文化と紅茶の社会− 改版』,中公新書,225p.
A臼井隆一郎(1992):『コーヒーが廻り世界史が廻る −近代市民社会の黒い血液−』,中公新書,237p.
B川北 稔(1996):『砂糖の世界史』,岩波ジュニア新書,208p.
 具体物を対象とするせいか、食料品など身近なモノの歴史を取り上げた本には好著が数多くあります。中でも代表的な3冊をあげました。それぞれのモノを通して、@はイギリスの資本主義や日本の開国、Aはイスラム教の観念や近代市民社会、Bはプランテーションや奴隷貿易などについて学ぶことができます。どの本からも、政治史中心の世界史とは「ひと味違う」歴史にふれられることと思います。
 
@伊藤章治(2008):『ジャガイモの世界史 −歴史を動かした貧者のパン−』,中公新書,243p.
A山本紀夫(2008):『ジャガイモのきた道 −文明・飢饉・戦争−』,岩波新書,204p.
 くしくも同じ年に、ジャガイモの歴史にまつわる新書が2冊刊行されました。いずれもバランスのとれた筆致ですが、@は世界や日本の各地におけるジャガイモの伝播に焦点が当てられているのに対し、Aは原産地のアンデスなど山地におけるジャガイモについてやや詳しくえがかれています。
 
 
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