人文地理学(担当:三木一彦) 今日のおすすめ             24・4・3現在
 
 
T.人文地理学とは
 
○地理用語集編集委員会編(2024):『地理用語集』,山川出版社,325p.
 高校地理の参考書で、本授業の小テストの種本です。地理で使う用語が、地誌的な内容も含めて要領良くまとめられているので、とくに高校で地理を学んでいない人(または自信のない人)、あるいは中高教員志望の人におすすめします。高校の教育課程改訂にともない、2024年に第8版が刊行されました。
 
 
U.人口
 
@速水 融(2001):『歴史人口学で見た日本』,文春新書,204p.
A山田昌弘(1999):『パラサイト・シングルの時代』,ちくま新書,204p.
B山下祐介(2012):『限界集落の真実 −過疎の村は消えるか?−』,ちくま新書,285p.
 @は日本の歴史人口学の第一人者による概説書で、とくに日本の人口史について詳しく書かれています(2022年に増補版刊行)。A・Bはいずれも近年の状況をえがいた本で、Aは少子化の一因となっている独身貴族の存在に分析を加え、Bはいわゆる「限界集落」問題を現地調査をもとに考察しています。
 
 
V.社会・文化
(1)人種と民族
 
@21世紀研究会編(2000):『民族の世界地図』,文春新書,294p.
A塩川伸明(2008):『民族とネイション −ナショナリズムという難問−』,岩波新書,214p.
B斎藤成也(2015):『日本列島人の歴史』,岩波ジュニア新書,177p.
 @は民族に関わる諸問題についての概説書です。民族と言語・宗教との関わりや、少数民族・民族紛争の問題などを、全世界を網羅する形で紹介しており、民族についての入門書として最適だと思います。2006年には新版も出されました。Aは、「民族」をキーワードとして、ヨーロッパにおける国民国家成立から現代のナショナリズム問題に至る近現代史を論じた好著です。「日本列島人」の歴史を概観するBは、日本に住む私たちが自らのルーツを問い直す道しるべになると思います。
 
(2)言語
 
@高島俊男(2001):『漢字と日本人』,文春新書,250p.
A黒田龍之助(2008):『世界の言語入門』,講談社現代新書,232p.
 日本人は当たり前のように漢字表記を用いているわけですが、考えてみれば漢字は外国の文字です。@は、そんな漢字が長い時間をかけ、さまざまな工夫を重ねて日本で受け入れられてきたものであることを教えてくれる一冊です。一方、世界の90言語を一人で紹介するというAは、世界が多文化であることの重要性を教えてくれる本です。
 
 
(3)宗教
 
@村上重良(1980):『世界の宗教 −世界史・日本史の理解に−』,岩波ジュニア新書,205p.
A末木文美士(2006):『日本宗教史』,岩波新書,242p.
 @は、世界の歴史や今の国際情勢を理解する上で不可欠な世界の諸宗教に関する知識を、偏ることなく教えてくれる一冊です。各宗教の日本への影響についてもふれられており、日本史の勉強にもなると思います。また、知っているようで知らない日本の宗教に関する基礎知識を得るには、Aがおすすめです。
 
 
W.政治
 
@姜 尚中・森巣 博(2002):『ナショナリズムの克服』,集英社新書,254p.
A太田 光・中沢新一(2006):『憲法九条を世界遺産に』,集英社新書,170p.
 @は在日韓国人の政治学者と、在外日本人の作家兼博奕打ちという両名による対談です。近年の日本のナショナリズムをめぐる対話を通して、国家や民族についての思索が繰り広げられます。どういう立場をとるにせよ、「国」を考える上での基本図書といえるでしょう。Aは、改憲ムードが広がる中、あえて読んでみたい対談です。
 
 
X.産業
(1)第一次産業
 
(農牧業)
○佐藤洋一郎(2016):『食の人類史 −ユーラシアの狩猟・採集、農耕、遊牧−』,中公新書,279p.
 「生きることは食べること」を出発点とし、人類が糖質とタンパク質のセットをどのように確保してきたかを、ユーラシア大陸の各地に探った意欲作です。ヒトが「いかに食べてきたか」をたどることで、食の現状や未来までをも見通そうとしています。
 
(林業・漁業)
○村井吉敏(1988):『エビと日本人』,岩波新書,222p.
 日本は世界有数の水産物輸入国です。その中でも大きな存在であるエビに焦点をあて、インドネシア・台湾をはじめとするアジアと日本の関係に迫った労作です。日本国内におけるエビの流通・消費にもふれられており、世界と日本の(やや歪んだ)つながりを学ぶことができます。2007年には続編が出されました。なお、同様な調査に基づく本に、鶴見良行『バナナと日本人』があります。
 
 
(2)第二次産業
 
(鉱業)
○鎌田 慧(2000):『日本列島を往く2 地下王国の輝き』,岩波現代文庫,281p.
 かつて鉱山業で栄えた国内5カ所(新潟(佐渡・越後)・秋田・島根・長崎)を記録したルポルタージュです。徹底した取材が独特の迫力を生んでいます。この『日本列島を往く』シリーズは、日本地理の良質な教材にもなり得る存在です。
 
(工業)
○矢野恒太記念会編・発行:『日本国勢図会』.(毎年刊行)
 統計書の定番です。一見、無味乾燥な統計から、今の日本や世界の姿が浮かび上がってきます。とくに統計に基づいた的確な解説は、それだけでも一読の価値があります。工業に関しても、工業全体のほか、業種別(金属・機械・繊維など)の解説もあり、勉強になります。姉妹編に『世界国勢図会』・『県勢』があります。
 
 
(3)第三次産業
 
@宇沢弘文(1974):『自動車の社会的費用』,岩波新書,180p.
A水野和夫・萱野稔人(2010):『超マクロ展望 世界経済の真実』,集英社新書,238p.
 @は、便利な乗り物である反面、公害や交通事故といった負の側面もかかえている自動車の存在について早くから警鐘を鳴らし、人間の側から自動車を考えてみた一冊です。現在、資本主義が大きな転換点に立っているというAは、世界の歴史や経済を巨視的にとらえた刺激的な対談です。
 
 
Y.集落
(1)村落
 
○今 和次郎(1989,初出1970):『日本の民家』,岩波文庫,351p.
 日本各地の村落を訪ね歩き、それぞれの地域における民家のありようを丹念に記録した本です。文章とともに150枚ものスケッチが収録されており、単なる民家の記録というにとどまらず、そこで営まれていた日常生活にも思いをはせることができます。
 
 
(2)都市
 
日端康雄(2008):『都市計画の世界史』,講談社現代新書,358p.
 古代文明の時代から現代に至る世界各地の都市を、「都市計画」という視点から見つめ直した好著です。世界中のさまざまな都市に関する多くの図版が収められており、本文と相まって理解を深めることができると思います。
 
 
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